みなさん今日は、
短いお話を紹介します。
私が書いた本で一番新しいのは5年前にオランダで出版されたものです。タイトルは「手話に包まれて生きる」です。耳の不自由な人たちについての本です。この本には“キツネとアヒルのおはなし”という作品が入っています。
キツネとカモのおはなし
ヘンク・ベッテン作
ある日、森の中で、おなかをすかしたいっぴきのキツネがエサをさがしていました。
と、とつぜん、ひとりぼっちのカモのすがたが目にとまりました。
カモはみずうみのきしべで、のんびりと日なたぼっこしているのです。
すると、なかまのカモたちが大きな声でグワッ、グワッ、グワッ、気をつけろよ、とそのカモに呼びかけました。ところが、カモはこわがる様子を少しもみせません。キツネの方がどうしたらいいのか考えこんでしまいました。
さっきからずっとこの様子を見ていたカラスがとつぜん、キツネに声をかけました。
「どうしたの、キツネ君。カモをつかまえないの?」
「え、ボク?その・・・つかまえようと思ったんだけど、あのカモったら、ボクのこと、ちっともこわくないみたい。変じゃない?」
それを聞いて、カラスはガハハハッと大声で笑っていいました。「変じゃないよ。あのカモは耳が聞こえないんだよ!」
それでもキツネはカモに飛びかかろうとはしません。あきれたカラスがまた、いいました。
「おいおい、どうしたんだい、食べないのかい。まるまるふとっていて、おいしそうじゃないか。」
キツネは答えていいました。「うーん、でも、耳の聞こえないカモなんて食べるわけにはいかないよ。」
訳: 野島泰二